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介護老人保健施設 社会福祉法人 北陸甲信越・東海

事例No.0661

1.取組の背景

 2020年3月度の離職率が60.3%という危機的状況にあった。職員が定着せず安全で安心な入居者の暮らしを実現することが困難であった。職員の労働環境も悪く、法人理念を実現できる環境になかった。

 法人理念の「会えて良かった」を実現できる職員になって欲しいとの思いから、人を大切にする経営学にある『五方よしの経営』(①社員とその家族の幸せを追求する②社外社員とその家族の幸せを追求する③現在顧客と未来顧客の幸せを追求する④地域住民、とりわけ高齢者や障がい者といった社会的弱者等の幸せを追求する⑤株主・支援機関等の幸せを追求する)を基本に「レモン改革3年計画」を実施し、「正しい組織の仕組み」と「よい社風」づくりを行ってきた。

 「2030年1月1日には『日本でいちばん人を大切にする社会福祉法人になる』」をビジョンとして掲げ、全職員に見える化し、職員一丸となって達成できるよう取り組みを行っている。

2.取組の内容

 『従業員とその家族の幸せを追求すること』を目的とし、3年計画の1年目には労働環境の改善、2年目には評価制度と研修制度の構築、3年目には正しい組織の仕組みとよい社風づくりを実現した。

 労働環境改善の施策として、高い離職率の原因分析と30を超える改善策を実践(例:特定技能介護外国人の積極的採用、人を大切にする面接手法の導入、変形労働時間制の導入、コロナ特別有給休暇、従業員へのお歳暮配布や同好会補助制度導入など)し、職員の働きがいや働きやすさの実現のため就業規則の改訂も行なった。

 就業規則の改訂については毎年、従業員の希望を反映し、年間休日数を増やしたり、パパ育児休暇制度や時間単位有給休暇制度の導入、パート職員へ正社員と同等の特別休暇10日間の付与などを行っている。

 評価制度については公正な評価制度を導入し、頑張った職員が正しく評価される法人となった。頑張りが給与や賞与へ反映されるため、職員のモチベーションアップに繋がっている。

 研修については、すべて勤務時間に内部研修・外部研修を受講できる環境にしている(一人当たり年間平均98時間)。介護の技術や知識に限らず、マネジメント・コミュニケーションスキル・人間学・労務管理やビジネススキル等を身につけることができる内容となっている。これらの研修を受講することで、主体性を持った従業員が増え、働きやすく働きがいのある法人になっている。

 2023年度から全職員参加の事業計画発表会も実施し、法人のビジョンや年度方針を共有している。2024年度には、全職員、入居者ご家族、お取引先様、ハローワーク様、市高齢福祉課様、市社会福祉協議会様にもご参加いただいている。

 

 労働力人口の減少が迫る中、時代の半歩先を意識し、業務改善とICT化を実施し、福祉の生産性向上に取り組んでいる。2023年4月から「楽したい委員会」(生産性向上委員会)を設置し、2班に分かれ職場環境の改善、データ共有等の業務改善に取り組んだ。1班は5S活動の中の2S(整理・整頓)に重点を置き、現場の共有スペースや介護材料室などの皆が使う場所を整理整頓し、職員の働きやすさ・無駄な時間の短縮・プチいら解消を実現した。2班はパソコン内の書類データ関係やフォルダの2S、PCデスクトップのアイコン配置を標準化し、書類データの検索時間の短縮など業務改善・業務効率化を実現した。

 2024年からは法人全体での活動とし、福祉の生産性向上や働きやすさ実現のため、業務改善提案BOXを設置した。職員から上がってきた業務改善案をもとに、課題解決に取り組んでいる。

 ICT化については、2020年クラウド勤怠システム導入、2022年シフト作成AI導入、2023年Chat-gpt導入、2024年音声入力記録システム(ハナスト)・インカム・aams導入等、順次実施している。

 ハナストの導入により記録時間を30分短縮できた。さらに直接的なケアをしながら記録をすることが可能となり、入居者へのケアの時間を増やすことができた。職員の記録業務負担の軽減も実現している。

 aamsの導入では、夜間巡視時間が120分から30分へと短縮できた。入居者の安眠を妨げる機会も減り、より安心安全な環境となっている。

 また、介護職員の業務を切り分け、間接的ケアの業務を生活援助員という職種に担ってもらうこととした。業務分担を行ったことで、介護職員の入居者に対する直接的ケアの時間を増やすことができている。

 

 『現在顧客と未来顧客の幸せを追求すること』を目的とし、入居者とは『4つの約束事』を決めてユニットケアを実践している。

 入居者の立場になって自分がどのような支援(介護)を受けたいか、逆に受けたくないのかを考えた。ユニットにおいてこれまでは職員だけで調理していたが、入居者と一緒に食材を買いに行き、一緒に野菜を切るなど、入居者が主役のユニット調理になってきている。また、ご家族も一緒に食卓を囲むユニット調理も実現できるようになってきている。

 入居者の『夢を叶えるプロジェクト』を開始し、これまで「黒鯛を釣りたい」「ひ孫を抱っこしたい」「お花畑に行きたい」「プロ野球を観戦したい」「図書館で本を借りたい」など多くの入居者の夢を叶えてきた。一緒に実現させることができた職員にとっても、かけがえのない経験となっている。これこそ「自分たちのやりたかったケア(介護)だ」と職員は言っている。

 2024年には新たに施設内でのイベント企画を行なった。リモートショッピング・屋台・居酒屋を開店した。暮らしの場である施設を住みやすい環境にしていきたいと考え、自分が入居したいと思えるケア(介護)・設備・イベントなどをみんなで考えて一つずつ実現している。

 『地域住民、とりわけ高齢者・障がい者といった社会的弱者の幸せを追求すること』を目的とし、雇用の機会を創出している。生活援助員業務がそれにあたり、高齢者や障がい者・就労支援者を雇用し、一人一人できることできないことがあるが、その人に合わせた仕事を生み出している。「働くことでしか得られない幸せ」を当人たちに感じてもらいたいとの想いからである。その結果、障害者雇用率は3.92%と法定雇用率を大きく上回っており、もにす認定法人にもなっている。

3.取組の効果(改善点)

 

離職率60.3%(2020年度)→8.5%(2024年度)

従業員数78人(2020年3月)→126人(2024年8月)

残業時間一人当たり平均7.2時間(2020年度)→2.2時間(2024年度)

研修時間一人当たり平均98時間

全従業員に対する介護福祉士の割合58.7%

老施協野球大会3位(2023年度)

ボーリング大会優勝(2022年度)、準優勝(2023年度)

特別有給休暇(年間11日):取得率100%

有給休暇取得率73.2%

障害者雇用優良企業もにす認定(2024年10月)

 施設の玄関を入ると目に飛び込む明るく開放的なメイン通路、穏やかな空気と明るく元気な受付職員のあいさつ、ユニットも同様に落ち着いた雰囲気で、職員が入居者と共にゆっくりとした時を過ごしている。

 自然と温かな気持ちになれる、笑顔になれると言ってくださる来訪者が多くなった。取り組みの成果が表れていると考える。

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