- ホーム
- 分野から事例を探す【施設】
- 事例一覧
- 事例No.0652
事例No.0652
1.取組の背景
「お客様と社会を援助する仕事を、プロに徹して笑顔で行い、働く職員全員が幸せな会社を作ること」という目的に基づき、利用者、そのご家族、介護人材、地域社会から選ばれてより喜ばれるサービスを提供し、地域介護業界のレベルアップやイメージアップに繋がる活動を展開をするために、介護職員の「働きやすい・働きがいのある魅力ある職場」を実現し職場満足度を向上させる取り組みが必要であった。
2.取組の内容
【人材育成制度】
<キャリア段位制度の制定>
介護プロフェッショナルキャリア段位制度の評価をベースに、職員の介護技術の向上、人間力向上などをめざした「独自基準」を追加して「キャリア段位制度」を制定した。レベル0からレベル7までの段位とし、それぞれに評価項目を設定した。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度の「アセッサー」を中心に、介護技術研修会を定期的に開催し、事業所全体の介護技術向上に取り組んでいる。また、職員が常に自発的にキャリアアップをめざせるよう、事業所にキャリア段位勉強会担当者(指導者)を配置。配置された各事業所の指導者育成にアセッサーが携わり「キャリア段位指導者勉強会」を定期的に開催し、レベルに応じた指導内容、指導方法などを教えることで、各事業所内での指導に活かす仕組みを作った。
毎年4月に評価を行い、段位ごとに設定している評価項目に基づき自己評価と上長評価を実施。上位レベルに到達していた場合、人事課へレベルアップもしくは更新の申請を行い、法人のアセッサーチームから2名のアセッサーが事業所を訪問。評価項目について確認した上で、自己評価・上長評価、更にアセッサー評価に基づき、最終的に段位認定審査会にて新段位を決定している。
また、看護職種については、日本看護協会「看護師のクリニカルラダー」をベースにして、2023年に独自のキャリアラダーを制定した。評価方法は、キャリア段位指導と同様で、自己評価・上長評価・法人の看護師評価者の3者が評価し、段位認定審査会にて新段位を決定する。段位については、給与の「キャリア手当」に反映して支給している。「キャリア手当」は、段位(レベル1~レベル7)に加え、勤務年数に応じて金額を決定している。
2022年は成果を発表する場として、全事業所が参加する独自の「介護甲子園」を開催。
当法人の「介護甲子園」は、与えられた課題事例に対し、事業所内で最も良いケアと思われる対応方法を考え、ケアを動画撮影しキャリア段位勉強会に提出する。上位3事業所が選ばれ、社員総会(WEB開催)で発表する。社員総会参加者のWEB投票により、1位を決定する取り組みである。約300名の職員が一つの課題事例を通して、各事業所で「良いケア」「確かな技術」とは何かを学ぶとともに、職員全員で取り組むきっかけとなっている。段位制度は制定するだけでなく幅広い活用により、職員自らがキャリアアップをめざせる仕組みとして機能している。
<GOODJOB研修>
毎年10月にGOODJOB研修を開催。入社3年以内の職員、中堅職員、管理職、それぞれのグループから選抜された15名~20名がその年の課題(登山や長距離ウォークなど)に取り組む。介護現場から離れ過酷な環境の中でそれぞれの役割や人生について考える研修である。過酷な環境下に置かれた時こそ、その人の本質をみることができる。管理職は、いかにチームをまとめ最後までリーダーシップを発揮できるかについて、中堅職員は、いち早く自分の役割を見出し多職種で構成されるチーム内の絆を深めることができるかについて、新人職員は、自分自身がつらい立場であっても自分たちのためにがんばる上司の背中を見ながら、ひとりでは乗り越えられない困難も、チームであれば乗り越えられるということについて学ぶことを目的としている。2日間かけて行われ、介護現場だけでは学ぶことのできないチームワークを学ぶ貴重な体験となっている。
<資格取得支援>
資格取得支援の規程を定め、公的資格等を積極的に取得することを奨励。介護福祉士・介護支援専門員の受検に向けては、「資格取得新プロジェクト」が学習をサポートしている。また、外国籍スタッフの介護福祉士受験対策についても、資格取得プロジェクトによるサポートがある。2022年度は、2名の外国籍スタッフが介護福祉士試験に合格した。資格取得支援の規程等については、入社時オリエンテーションで人事課より説明した上で、各管理者が年に2回行う「2WAY面談」の際にも説明し、今年取得を目標とする資格を決定・申請を行うものとしている。なお、人材育成の方針については社員総会にて、部門長より全職員に対し毎年説明している。
<公的資格取得報奨金規程>
職員が業務に関する公的資格を積極的に取得することを奨励し、会社の管理、技術、技能の水準向上を図るとともに、人材育成計画の円滑なる推進を目的として、公的資格取得報奨金を設定している。
介護福祉士:10,000円 精神保健福祉士:30,000円 介護支援専門員:30,000円
<キャリアアップ(自己啓発)支援規程>
自己啓発による積極的なキャリアアップを支援し、会社の管理、技術、技能の水準向上を図り、人材育成実施計画の円滑なる推進を目的として、キャリアアップ支援制度を制定している。介護福祉士実務者研修受講費用の90%を会社が負担。介護職員初任者研修受講費用の80%を会社が負担。
<資格取得のための勤務調整>
資格取得に向けて必要な研修は業務内で行い、研修参加のために人員が不足する可能性がある事業所に対してはケア本部代務班が現場の代務を行い、研修に参加しやすい環境を整えている。
【組織管理・業務管理】
<月間MVP>
職員の中から毎月『月間MVP』を選び授与している。『月間MVP』とは、現場スタッフの日頃のがんばり(良いケア)を表彰するものである。毎月各事業所からMVP候補者を推薦し、ケア事業部幹部会で協議の上、1名を『月間MVP』として表彰している。ケア事業部部長が直接現場に出向き直接本人に授与する。
<社内表彰制度>
社内表彰制度がある。部門長から推薦された職員又は団体は、本社の全体朝礼(毎月1日)において、社長より直接表彰状等が授与される。表彰を受ける職員のモチベーションアップに繋がっている。
<情報共有システムを活用した情報管理>
『ハートフルケア通信』
自社で開発した「ハートフルケア通信」という情報共有・報告システムを使用し、各事業所だけにとどまらず、事業部を超え全社的に情報共有を行っている。苦情対応においては、その内容を経営者・役員含め全ケア事業スタッフに報告・共有することにより、現場のみではなく経営者、役員の指示も受けながら、リアルタイムかつ適切な対応を実施している。
他事業所において同様の苦情を受けないよう、再発防止にも活用している。組織として苦情対応を実施することにより、属人対応を避け法人としての対応を可能としている。更にデータベース化、分析を定期的に行なう事で、再発防止に努めている。データベース化により、過去の事例も簡単に検索できることで、対応ノウハウの共有化も可能にしている。
ハートフルケア通信のシステムを通じて、物品の破損など些細な事を含めて報告・共有する事がスタッフの意識に定着し、情報をオープンにする企業風土となっている。
<グループウェアを使った情報共有>
グループウェアを使用し全社をネットワークでつなぎ様々な業務を行っている。メールの送受信、会議室や社用車の予約、スケジュール管理などのアプリケーションが搭載されており、グループウェアを活用して効率的な業務遂行を行うとともに業務改善にも役立てている。
また、グループウェアに搭載されているシステムで様々な業務をアプリ化することに挑戦し、ますます加速するデジタルトランスフォーメーションに対しても、全社的に取り組んでいる。
アプリケーション開発例
・デイサービス日報・施設入居率・交通事故分析・介護福祉士受験対策・介護支援専門員受験対策
<日本初のユマニチュードブロンズ認証施設>
「良いケア・良い生活の場」を実現するために、「ユマニチュードケア」に取り組んでいる。
ユマニチュード認証制度は、本人・家族、職員、経営者のすべての幸せをめざし、ユマニチュード5原則と生活労働憲章の実現を通じて質の高いケアを実践している組織を、一般社団法人日本ユマニチュード学会が認定するものとして2022年に制定されたものである。
ユマニチュードケアの実践は、ご入居者の「良いケア・良い生活の場」の実現だけでなく働く職員のやりがいや達成感にも直結することから、組織全体に浸透させることに時間は要したが、取り組むことで組織力、チームケアの向上、職員の働きがいに繋がった。
<社員総会>
期初に社員総会を開催。
近年は、コロナ禍の影響でZoom開催としているが、毎年約130名が参加している。平日の夜に開催し、夜勤勤務者を除くとほとんどの職員が参加。ケア事業部部長による前期の振り返りと今期の方針、職員に期待していることなどが発信される。
事例発表会や介護甲子園などについて事業所から発表。永年勤続表彰や年間個人表彰などが行われ、社員総会を通じて、職員のワークエンゲージメント向上をめざしている。
<夢かなえプロジェクト>
介護保険制度の枠や事業所内外に縛られることなく、ご利用者・ご入居者の想いや夢をスタッフが叶えることができれば、こんな素晴らしいことはない!というスタッフの熱い想いが集まり「夢かなえプロジェクト」を発足。
「居酒屋に行ってお酒が飲みたい」「もう一度パンが作りたい(元パン屋さん)」「思い出の喫茶店でコーヒーをのみたい」など、様々な夢を実現してきている。ご入居者の想いや夢に触れ、それを一緒に実現することで、スタッフの心の育成にもつながっている。
【評価・処遇制度】
<個人別目標管理制度>(定期的な2WAY面談)
毎年、期初の2月と下期が始まる8月に、上長と行う「2WAY面談」を実施。前期の振り返り、評価、そして当期に目標とすることについて所定のシートを活用して行う。2WAYシートはネットワーク上で管理されており、いつでもどこでも自分のスマートフォンなどで繰り返しみることができる。振り返りがしやすいように定量的な目標を設定するように指導している。
また、本人が気付いていない良い面や改善点などを、本人に伝わるような言葉で伝えるようにしている。面談者は面談技術が問われることから、管理者研修において面談技術の研修も合わせて行うことで、職員がしっかりとした目標設定ができ働きがいが持てるように支援している。
【福利厚生】
<業務や福利厚生制度、メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置等相談体制の充実>
事業所現場スタッフに対する福利厚生費の予算が設定されている。予算については事業所管理者が管理し、職員間のコミュニケーションの場の提供等に使用することができる。
職員のメンタルヘルスについては研修を定期的に開催。特に管理者に対して働く職員のメンタルヘルスを守るために必要な研修を開催し、相談に応じるようにしている。また、相談先は上長だけでなく別の相談窓口も設置し、上長に直接相談しにくい内容についての相談の受付をしている。担当者は、相談者に不利益のないように配慮している。
【労働環境】
<介護現場のDX>
介護ロボット( 移乗ロボット )などの導入を先行実施している。介護付有料老人ホームではカメラ付きナースコールシステムと記録システムを2022年度に導入し、職員の働きやすさ向上、人材不足への対応、業務効率化に向けた改善、そして新たな価値の創造に向け取り組んでいる。
これまで、PHSで対応していたナースコールをスマートフォンを活用したナースコールシステムにしたことで、コールがなった際に画像でご入居者の様子が確認できるようになった。また、コールは自動的に記録システムへ書き込まれる。
日中・夜間ともにナースコールが重複した場合、職員は施設内を走りながら対応していたが、コールがなったときの状況を離れた場所から確認できることができるようになったため、優先順位をつけやすくなり業務の効率化につながった。
更に、コールだけでなく録画機能により、職員が不在時のベッドからの転落やずり落ち等も確認でき、効果的な再発防止策を立てることができるようになった。記録システムを導入したことで記録のほとんどを電子化し、離れた場所での情報確認が可能となった。導入前、事務所の相談員は、家族連絡があった際、毎回、その方の入居フロアへ行き記録用紙に記録を記入した上で、更に口頭でも職員に伝達するなど、情報共有に大変時間を要していた。導入後は、1階事務所でシステムにアクセスできるため移動する必要がなくなり、常にフロアスタッフに最新情報を提供できるようになるとともに、音声入力が可能になったことから記録にかかる時間も大幅に短縮した。音声入力は、日本語の記録に難しさを感じていた外国籍スタッフにとっても働きやすさにつながっている。ICT機器を活用し業務を効率化した上で、人の手でしか行えない良いケアを入居者に届けられるように、介護技術や認知症ケアの勉強会などを更に進めていく予定である。
在宅サービスを行う訪問看護事業、24時間定巡回随時対応型訪問介護事業、通所介護事業でも、すでに記録システムを導入しており業務の改善につながった。
【労働条件】
<有給休暇が取得しやすい環境の整備>
年間の有給休暇取得計画を各事業所で立案し、上長の承認を得る。年次有給休暇が取得しやすいようにケア本部にサポートチームを設置し、現場シフトの応援サポートをする体制を作っている。
【仕事と家庭の両立支援】
<両立支援・多様な働き方の推進>
子育てや家族の介護等と仕事の両立をめざす職員のための休業制度等の充実に取り組んでいる。現在、育児休暇取得者の復帰
率は100%。
・2022年度 産前産後休暇、育児休暇取得者 3名。産前産後休暇、育児休暇復帰者 1名(保育園の入園時期に合わせて、
育児休暇延長もすべて対応)
・2023年度 産前産後休暇、育児休暇取得者 3名(うちパパ育児休暇1名)
職員の事情に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、職員の希望に即した非正規職員から正規職員への転換の制
度も制定している。産前産後休暇、育児休暇取得後、子が小学校に入学するまでに短時間正社員制度を活用して勤務時間
を変更することもできる。職員の希望とその適正が認められた場合、パートタイム勤務から正社員への転換を可能として
いる制度も制定している。一方職員の家庭の事情等で正社員からパートタイム勤務への転換も可能で、離職することなく
ワークライフバランスを取ることを可能としている。
【その他】
<外国人介護職員の活躍>
当該法人には、様々な在留資格で働く外国籍スタッフが在籍している。
(技能実習生4名、特定技能スタッフ2名、在留資格「介護」2名、 その他の在留資格3名)
介護付有料老人ホームでは、介護技能実習生を3名受け入れ、全員が「介護技能実習上級試験」に合格することができた。
外国籍スタッフの受け入れに伴い、業務・マニュアル、指導方法を見直している。日本人スタッフ自身も、再度介護技術の勉強をするきっかけとなっている。
外国籍スタッフの前向きで一生懸命働く姿は多くの日本人スタッフ、更にご入居者の心に響き、チーム内の雰囲気や業務が大きく改善された。
また、サポートを担当している日本人スタッフは業務だけでなく、慣れない日本での生活のサポートをするとともに、日本文化に触れることや観光、体調不良時の受診付き添いなど幅広く支援している。技能実習をすべて終了した実習生のうち2名は特定技能へ在留資格を切り替え、継続して勤務することが決まっている。
3.取組の効果(改善点)
・キャリアアップの仕組みと賃金を連動したことで、キャリア評価に応じた賃金支払いができるようになり、働く職員のモチベ
ーションが更に向上し、自らキャリアアップについて真剣に考え、自ら判断し行動できる自立的な人材になった。この仕組み
は、働く職員のみならず指導者(管理職)の育成にも効果が出ている。
・介護現場のDXに取り組んだことで、人材不足の解消、業務の効率化、良いケアの推進が図られ、更に新たな取り組みを始め
ることができた。特に3名体制であった夜勤をICT機器の活用により、2名体制に移行できたことで「ユマニチュード認証施設」
に向けた新たな取り組みができた。人の手でしか実現できない「良いケア」の充実のための取り組みも始めることができた。
・育児休暇の法改正後、2023年度に職員が初めて「パパ育児休暇」を活用した。これまでも育児休暇を取得した男性職員はいた
が、改正後に「パパ育児休暇」の取得者が出たことにより、今後も、女性の活躍推進のみならず、すべての職員が働きやすい
職場をめざすきっかけとなった。
・離職率は低く、昨年度の離職率は6.5%であった。