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事例No.0537
1.取組の背景
介護事業所での勤務経験をもとに、令和5年4月に開業した。前職(施設系)で感じた問題として、介護職の雇用が容易ではないこと・離職が多いことがあった。
開業した「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は訪問系の介護事業であり、更に問題が強いと考えていた。訪問系特有の問題として、若い世代の雇用が困難であることが予想された。また、「定期巡回」には24時間の人員配置が必要であることが、更なる問題であった。一般的な訪問介護事業では夜勤の勤務体制はほぼないのに対し、夜勤の対応が必要であった。訪問介護職員として多くを占める「訪問経験のある高齢世代」は夜勤を避ける傾向にある。
若い世代は夜勤を好む傾向にあるが、訪問系の事業を避けるというジレンマを乗り越えなければならず、新規事業では何らかの対策を行う必要があった。また、若い世代は訪問未経験も多く、離職対策も必要であった。
2.取組の内容
有給休暇
取組内容としては週休3日制、有給休暇の前倒しを行っている。
介護・セラピスト・看護職等の現場職については1日10時間労働、週4日勤務(週40時間労働)を行っている。また、有給休暇を入職日5日間、入職後6ヵ月後5日間支給している。2年目には6ヵ月前倒しで有給休暇を支給している。
週休3日制も有給休暇の前倒しも総労働時間や総支給日数としては変わらず、ずらしているだけである。通常の企業と同じ労働時間数・有給休暇日数であるが、雇用時の勤務・福利厚生の条件としてはとても有利になる。勤務形態が事業にあえば、費用が余分にかかることもなく効果を上げられる。
苦労した点については、10時間労働に対する求職者の経験のなさである。一般的な労働時間と比べ長時間になるため、特に年配の求職者からは不安の声がある。施設系の事業所では、8時間労働であっても前残業や後残業を合わせて1時間強働いているケースが多い。そういった事例を出して「(8時間+残業)×5日/週」で働くよりも「10時間×4日/週」の方が負担が少ないというような説明を行っている。
夜勤帯も10時間労働で統一することで、シフト間での負担の違いを少なくすることができている。他事業所の夜勤では16時間労働などもあるが、10時間労働のシフト体制にすることで高齢の職員からも負担が少ないとの声も上がっている。
業務上も書類作成等の調整が勤務内で可能で、残業もほぼ発生していない。実務以外の面でも、求人条件の「年間休日160日以上」にも大きな反響がある。
有給休暇については、就業規則や勤怠管理システムへの反映が課題としてあったが、就業規則は厚労省にすでにサンプルがあり、勤怠システムについてもサポートの支援を受け対応することができた。
副業
週休3日制と合わせて「副業可能」を実施している。
具体的な業種の制限等はなく、本業に影響のある場合を除いて会社に許可を得る必要もなく副業をすることができる。
こだわりについては、なるべく会社が制限することなく自身のキャリアや興味を優先して行えるように意識している。実際の副業先は、「牛丼屋」「居酒屋」「スーパー」「コンビニ」「ホテル」等、多様である。
職員からは「他業種での経験が刺激になる」「稼働の割当など他業種でも活用できるスキルを発見した」「本業での新しい気づきや改善につながった」などの発言があり、他業種の経験が職員の能力の幅を拡げていることが感じられている。
また、「プライベート」「本業」の居場所に加えて「副業」が3つ目の居場所になることで、人間関係のリフレッシュに繋がっているとの声も聞こえる。
週休3日制と副業が合わさることで、収入の増加や多様な経験、家族や趣味の時間の確保など、「ライフステージによる多様な働き方の選択肢」が可能な職場であることが離職防止に役立っているようだ。
課題としては、副業については職員の自己管理になる部分が大きく、過重労働よってワークライフバランスが崩れる恐れがあることである。役職員が雑談ベースなどで状況を確認し、相談にのるようにしている。
当初、介護等の同業種での副業が主であると想定していた。他事業所からも「夜勤のバイトに入ってくれる職員はいないか?」などの問い合わせも多くあった。地域の介護事業所で労働力やノウハウを共有し、連携を取れるものと考えていた。しかし、実態としては同業の介護事業で働く職員はほぼおらず、「違う業界」で働くケースが多くなっている。
求人の面では副業に興味を持つ介護職員は多く、施策は大きな効果を生んでいる。
業務内容、ICTを用いた働き方
求人・面接時に「業務内容、ICTを用いた働き方」の説明を行っている。
当社の求人の方法は、独自で行う「会社説明会」とハローワーク経由の紹介である。その中で、事業の説明や業務内容の紹介、実際に使うICTを用いた働き方の説明を行っている。
「就職は会社と職員の結婚のようなもの。お互いを知らなければ別れることになる。お互い別れることには大きなエネルギーがいるので、お互いのことを理解し永く一緒にいたい」との思いがある。面接の前にはハローワーク経由の場合であっても、1時間前後は会社説明を行っている。特に「定期巡回事業」や「週休3日制」などは一般的な事業や制度ではないため、説明を行うと求職者からは「当初に思っていた内容とは違っていたが、さらに興味が沸いた」との感想をもらうことがある。説明では特に「業務の中で大変なこと」「ICTを用いて業務を行っていること」を意識して説明している。若い世代の求職者からは「キャリアアップになる」との声が出るが、高齢の求職者からは「新しい事業やICTの利用が不安だ」との声も聞こえる。
働いている職員からは、業務に関して事前に説明がありミスマッチの心配がなかったと短期での離職率も低い。ICTについても雇用契約や勤怠・給与を電子的に行うことに当初は不慣れな職員も多いが、慣れるまでの期間も短く比較的簡単に使いこなしている。
また説明会では、介護業務のICTについては具体的な使用方法も紹介しており、それが効率的な業務に繋がっていること・残業の抑止に効果があることを説明している。事前に紹介していることもあり、実務ではスムーズにICTの利用に繋がっているように感じている。
事前に説明を行っているため、比較的高齢の職員も入職に対して不安が少ないようで、また自分の思っていた仕事とのズレが少なく離職防止に繋がっている。
3.取組の効果(改善点)
週休3日制は週休2日制よりも若い世代への訴求度が高い。求人への応募者は20~30代が多く、実際に定着した職員も20~30代が多い。現在の職員数は、19名であるが、開業からの離職者は2名と少ない。また、職員の多くが副業をしており、離職した2名の退職理由も、業務負担によるものではない。来年度は有料老人ホームの開所も控えており、そちらでも現場の介護・看護職員は週休3日制を採用し、他の事業所に先んじて職員の採用を図る。
「週休3日制」「副業可能」は訴求力が大きく、過去に3日間行った会社説明会(単独開催)への参加者も30名程度と非常に多かった。また、事前に具体的な説明を行うというスタイルには効果があり、30名の説明会参加者の内、面接につながったのが10名程度と応募へのコンバージョン率も非常に高い。
また、職員の19名のうち17名は既存の職員からの紹介(知り合い)であり、主に20~30代の職員が自身の知り合いを事業所に誘っている。「週休3日制」「副業可」が若い世代の取り込みに効果を上げている。
「1日10時間制」が24時間人員配置・訪問介護の業務形態にあっており、月の残業時間はほぼゼロである。また、夜勤の身体的負担も少なく、それを事由とした退職はゼロである。