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事例No.0523
1.取組の背景
所属しているNPO法人の研修会(以下、「部会」という。)が年に4回~5回開催されている。
その中で、『世相を反映している「ハラスメント」とはどのようなものなのか、また、対処方法はどのようになど、基礎から勉強してみよう』という部会の意向がきっかけとなり、法人として取り組むこととなった。
事業所内では、「ハラスメントに該当するのでは?」という報告が以前から散見されていた。
利用者からのハラスメントとしては、高圧的・威圧的態度の命令口調が多いと感じる。中には本人が思うようにならない苛立ちから罵倒につながる事例も時々あった。
介護事業所におけるハラスメントには、利用者及びその家族によるもの、職員によるものがあり、「多種多様なハラスメントの本質と、ハラスメントか否かの境界線を正しく理解して、スタッフ全員が冷静、かつ、事実に基づいて判断できるように学習していくことが、利用者への質の高い介護、ひいてはスタッフ個々のメンタルを守ることにつながるのではないか?」との思いが原動力となった。
2.取組の内容
介護労働安定センターへの相談を経て、研修(ケア・サポート講習)を開催した。
具体的には、部会に参加するすべての事業所のスタッフを対象に、専門家講師による「ハラスメント講習」と題した研修(オンライン形式)を実施した。ハラスメントの知識・情報・対策や介護現場における対応方法、事業所としての相談体制の構築などを学習した。
≪講習内容≫
・職場のハラスメント対策
① 職場のハラスメント対策の必要性
② 職場のハラスメントがもたらす影響と損失
③ ハラスメントの基礎知識
④ 職場の主なハラスメント
⑤ 職場のハラスメントへの気づきと発生予防
⑥ 相談対応の流れ
・介護現場のハラスメント
① 介護現場におけるハラスメントの現状
② 介護現場のハラスメントの定義
③ 施設・事業所として介護現場のハラスメント対策への取り組み
④ ハラスメント対策として事業所が考えるべきこと、対応すべきこと
⑤ 相談を受ける時の心構え
講習受講を経て「ハラスメント委員会」を設置し、継続的な意見交換と情報共有を実施している。スタッフがハラスメントに関する相談や意見交換、体験を話しやすい風通しの良い環境と体制の整備を図っている。
3.取組の効果(改善点)
(1)スタッフの変化
① 利用者からの指摘を何でもハラスメント目線で見るのではなく、冷静に受け止めて判断するようになった。自身に未熟な点や至らない点があった場合には素直に反省するなど、改善が図られている。
② 漠然とハラスメントをとらえるのではなく、事態を冷静に見極める感覚を養うことができたため、職員が自身のメンタルを以前より良好な状態で保てるようになった。
③ 利用者が個々に抱える辛い状況(身寄りがない、病を抱えているなど)の中で、精神的な不安がハラスメントを引き起こすこともある。複合的な要因によるハラスメントへの対処については、他の事象と一括りにせずに、スタッフ同士の継続的な意見交換と情報共有、一緒に対処法を考えることが肝要であることを認識できた。
④ スタッフ同士のコミュニケーションでは、自身の価値観を優先するのではなく、常に相手の立場に寄り添った言動や行動を心掛ける必要性に気付けた。
⑤ 強い叱責などのハラスメントを受けた際は、一旦、冷静に受け流す(スルーする)ことがとても大切であり、まずは自身のメンタルを守ることを優先に考えられるようになった。
⑥ ハラスメント委員会を定期的に開催してスタッフ間の情報共有を図ったことで、日常会話のなかで自然にハラスメントについて語れるようになった。職員が問題を一人で抱え込むことも少なくなり、心身のバランスを保てるようになった。
(2)利用者の変化
①スタッフが曖昧な対応をせず、毅然とした冷静な対処(説明)を繰り返すことで、スタッフの出来ることと出来ないことについて利用者の理解が促進され、無理な要求や暴言などは以前よりも確実に減少している。
対ハラスメントにはゴールがなく、これから先も永く続いていくものである。今回の研修で終わりにしてしまうのではなく、ハラスメント委員会として定期的かつ継続的に開催していくことで、スタッフ間の意識の共有と新たな情報交換がなされ、時代の変化に対応した持続的な効果を発揮すると考えている。また、ハラスメントを深く理解することは、質の高い介護とスタッフの健康確保に必要不可欠な取り組みであることを新たに認識した。